ネット印刷を依頼する際に注意すべき著作権や肖像権、商標権について
2023.01.15ネット印刷・デザインお客様の目を引く印刷物を作成するために、デザイナーはさまざまなイラストを使用します。
自分でイラストを作成しない場合は、インターネットなどで印刷物に合った画像を取得することもあることでしょう。
しかし、それは誰かの所有物ではないでしょうか。
本記事では、ネット印刷の依頼時に注意をするべき著作権についてご説明します。
著作権とは?
著作権とは、文芸・学術・美術・音楽を対象とした著作物や、それらを作成した著作者、権利を所有する企業を保護するための権利です。
具体的に著作物とは、著作者の考えや感情を絵や文章、音声で表現したものです。
そのため、加工前のデータやアイデア自体は著作物に含まれません。
対象となる著作物には小説や音楽、イラスト、漫画などが含まれており、無断で使用すると著作権法違反により罰せられます。
著作権は著作物を無断で使用されることによる、著作者の損害を防ぐために制定されています。
そのため、著作物を使用する場合は、著作者や著作権を所有する企業に使用料を支払わなければなりません。
制作したものの著作権を取得する場合は、特許庁や文化庁など行政機関に届け出を出し、承認されなければなりません。
手続きの完了と同時に著作権が有効になるため、第三者が無断で自分の著作物を使用していた場合は差し止め依頼や排除をすることが可能です。
また印刷だけではなく、インターネット上で誰もが閲覧可能な状態で公開することも著作権法違反となります。
著作権に抵触する印刷物
こちらでは、著作権に抵触する印刷物をご紹介します。
手書きの作品
漫画家のイラストやライターが作成したデザインなど、手書きの作品は著作権に抵触する可能性が高いものです。
インターネット上ではイラストレーターなどがイラストなどをアップしているため混同する方もいますが、持ち主の許可なく使用することは控えましょう。
有名人の写真
インターネット上や書籍に掲載された有名人の写真を無断で使用することも著作権法に抵触します。
ただしアイドルのコンサートに行く際などに持参する、自作のうちわやグッズなどは個人使用であるため、著作権に抵触しない可能性が高いです。
自作グッズを配布、譲渡してしまった場合は著作権に抵触してしまうため注意しましょう。
フリー素材
フリー素材については、取得元の情報をよく確認しておくことで著作権の侵害を避けることができます。
たとえば「営業での利用禁止」や「使用時は著作者に連絡をする」といったルールがあった場合、それらを遵守しなければなりません。
【例外】著作物が自由に使える場合
印刷物のなかには、例外として自由に著作物を使うことができる場合があります。
こちらでは、著作物が自由に使える場合についてご紹介します。
私的使用による印刷物の発行
自身で見直したり、保管したりするために既存の印刷物や著作物を複製することは、法的には問題がない行為です。
また、既存の著作物を翻訳や変形なども行うことができ、自身が見やすいように編集することができます。
しかし、ほかの方に渡したり、公共の場で使用したりすることは認められていません。
図書館や教育機関などでの使用による冊子の複製
国立図書館や、国からの政令で認められた図書館においては、利用者に提供することや保存すること、ほかの図書館への提供を目的として著作物の複製が許可されています。
また、学校の図書館など、子どもの教育に必要な場合も複製が可能です。
引用
販売や公共の場で公開する冊子でも、一部を引用することが可能な場合もあります。
ただし、引用する場合は公正な慣行に合致することや、引用の目的上、正式な範囲内で行われることが文化庁に許可された場合に限ります。
教科書への記載
教科書は子どもたちの教育のために必要な教材で、授業に使われます。
著作物のなかに記載されている情報や、著作物そのものは子どもたちの教育に必要であると判断し、文化庁が許可した場合に限り教科書に記載することができます。
試験問題としての複製
入学試験や採用試験といった、さまざまな試験に問題として出題することや、インターネットなどを利用して試験を行う際には著作物を複製することができます。
ただし、著作権者に不当な経済的不利益を与える可能性がある場合には、著作物を複製することができません。
このように、一部例外的に著作物を複製することが認められています。
しかし、著作権者に不利益が発生すると判断されると使用することができないだけではなく、冊子を発行後に著作権者から苦言を呈される可能性があるため、既存の冊子はできるだけ使わないことをおすすめします。
冊子を見た人が満足できるような、オリジナルな内容のものを製本しましょう。
肖像権とは?
肖像権とは、自分自身の顔や姿を撮影した写真や動画の流出を防ぐ権利を指します。
たとえば、タレントやスポーツ選手の姿を描いた肖像画を、本人に無断で冊子やグッズに印刷しないように保護することが挙げられます。
先述した著作権は作品が対象になっていますが、肖像権は人を対象としている点が異なります。
下記、肖像権に含まれる「プライバシー権」と「パブリシティ権」をご紹介します。
プライバシー権
プライバシー権とは個人の姿や情報といった、私生活上の事柄を守る権利を指します。
他人の姿を無断で撮影したり、無許可でインターネット上に公開したりした場合、プライバシー侵害の可能性があるため、訴訟に発展することがあります。
パブリシティ権
パブリシティ権とは、有名人が持つ経済的な利益や価値を財産と考え、その財産を守ることが挙げられます。
たとえば、有名人が動画サイトなどで動画を公開し、それらを本人の許可なく転載や共有した場合、パブリシティ権の侵害となります。
肖像権侵害の基準
肖像権は法律で明文化されていないため、明確に侵害の基準は定められていませんが、下記のような行為は侵害ととらえられる可能性があります。
- 被写体が特定可能
- 拡散性の高さ
- 撮影場所が特定可能
- 撮影や公開許可の有無
たとえば、SNSなど拡散性が高いメディアに、本人の許可がない写真や動画を掲載する行為は肖像権の侵害となります。
一方、被写体にモザイクがかかっていたり、メールなど非公開の場で共有されたりした場合は肖像権の侵害ととらえられない可能性があります。
肖像権に抵触する印刷物
下記、著作権に抵触する印刷物の一例です。
- 有名人が写った写真
- ブランドロゴ
- アニメのキャラクター
これらの情報を使用する場合、事前に対象となる事務所や発行元に連絡し、許可を得ている必要があります。
ただし、印刷業者によっては販売目的ではない場合でも、これらの情報が記載された印刷物の印刷を断ることがあります。
また、先述した印刷物を引用、編集したパロディデザインも断られることがあります。
パロディデザインについては引用元となった有名人やブランド、アニメの制作会社から警告を受ける可能性があります。
商標権とは?
商標権とは、商品やサービスについて使用する商標に対して与えられる独占権を指すもので、商標として保護されるものは文字、図形、記号や立体的形状のように目に見えるものだけではなく、音なども含まれます。
商標権を得るためには、特許庁に対して商標登録を出願し、複数の審査を経てから権利を得ることができます。
商標権に抵触する可能性があるもの
商標権に抵触する印刷物には、下記のようなものが挙げられます。
- ブランド名
- ブランドロゴ
- サンプル品や不良品
いずれも特許庁に商標登録を提出し、承認されたものが対象となります。
これらの情報が印刷されたものを使用すると、商標権の侵害となる可能性があります。
たとえば、別ブランドのアイテムに侵害元となるブランドのロゴを刻印したり、ブランド名が印字されたシールを別ブランドのロゴの上から貼り付けたりといったことが挙げられます。
また、ブランドが販売しているアイテムを、外見を変えずに中身を変えて販売したりするといったことも、商標権の侵害となる行為です。
商標権に抵触する印刷物を発行したことをきっかけに訴えられ、裁判にて商標権侵害が認められた場合、商標の使用禁止と対象となった印刷物の回収、損害賠償の請求といったことが命じられます。
商標権侵害の基準
商標権の侵害となる基準には、下記のようなものが挙げられます。
商品が同一 | 商品が類似 | 類似していない | |
商標が同一 | 侵害 | 侵害 | 侵害にならない |
商標が類似 | 侵害 | 侵害 | 侵害にならない |
類似していない | 侵害にならない | 侵害にならない | 侵害にならない |
印刷業界において「同一」とは、別の会社が印刷している冊子の内容が同じものを指し、「類似」とは他社の印刷物と企業ロゴやデザインなどがとても似ていることを指します。
特許庁の商標審査基準においては、商標の類似の判断は商品が有する外観や称呼、観念などの総合要素をもとに考察されます。
また、お年寄りや子どもといった、商品の需要者層に違いがある場合、商標権の侵害が認められないことがあります。
下記、特許庁の商標審査基準です。
外観
印刷物の見た目を指す判断基準で、デザインや使用しているロゴといったものが対象になります。
同じような構成で製本された冊子は商標権の抵触となる可能性が高いため、注意が必要です。
称呼
称呼(しょうこ)とは文字や図形といった商標の構成から生じる読み方や呼び方を指すもので、いわゆる読み方を指す基準です。
たとえば、「AOI」と「青い」では、外観は異なりますが、読み方は同じであるため、商標権の侵害で訴えられる可能性があります。
観念
観念とは、文字や図形で構成されたものから生じる意味を指す判断基準です。
たとえば、「blue」と「青」は外観も称呼も異なっていますが、意味は同じであるため、商標権に抵触する可能性があります。
法律に抵触した場合の罰則
先述した著作権や肖像権、商標権といった法律に抵触した場合、下記の罰則が科せられる可能性があります。
侵害行為の差止請求
これ以上の被害を防ぐため、侵害行為をしている印刷物の出版を停止します。
また、印刷物がインターネット上で拡散されないよう、自主回収を行うこともあります。
損害賠償の請求
裁判の判決によって、各種権利を侵害したと認められた場合、被害先に対して損害賠償の請求が求められます。
著作権の場合は1,000万円以下が科され、著作者の人格を侵害した場合は500万円以下の罰金が科されることが法律に明記されています。
不当利得の返還請求
各種権利を侵害して得られた利益は、本来得ることができなかった不当利益としてとらえられます。
そのため、侵害者は各種権利を侵害したことを認めたうえで、侵害された方に対して不当利益を返還する必要があります。
名誉回復などの措置の請求
誹謗中傷など、各種権利を侵害した印刷物によっては、被害者の名誉を大きく傷つけてしまうことがあります。
そのような場合、「記載した内容は誤りでした」といったことを視聴者全員に伝えたり、各家庭にポスティングして事実を述べたりするといった、名誉回復のために行動する必要があります。
懲役
裁判所の判決によって、罪が重いと判断された場合、懲役刑に課せられることがあります。
著作権侵害の場合は10年以下で、著作者の名誉や人格を損ねた場合は懲役5年以下が科せられます。
各権利を侵害してしまった場合
こちらでは、各権利を侵害してしまった場合をご紹介します。
類似性を認めない
これらの権利は、主張されたと考えている方自身や作品、属している企業に似ていると判断された場合に訴えられるものです。
そのため、類似性が認められない場合は「〇〇の箇所が似ていない」といったように伝えましょう。
商標利用ではない旨を伝える
自身で使用するために、商標ではない印刷物を発行した旨を伝えることも有効な手段のひとつです。
ただし、街頭で配布したり、本屋に並べてもらったりする行為は商用利用です。
使用権を確認する
各種権利は、先に特許などを出して、認められた方が使うことができます。
そのため、ご意見をいただいても自身が持つ正しい使用権を提示することで、裁判に発展することはありません。
各種法律のまとめ
下記にて、これまでご紹介した著作権、商標権、肖像権に関する情報をまとめます。
著作権 | 肖像権 | 商標権 | |
対象となるもの | 手書きのもの
写真 フリー素材 など |
有名人が写った写真
ブランドロゴ アニメのキャラ |
ブランド名
ブランドロゴ サンプル品や不良品 |
法律の有無 | 〇 | × | 〇 |
罰則 | 10年以下の懲役
1,000万円以下の罰金 |
× | 10年以下の懲役
1,000万円以下の罰金 |
守るもの | 著作者や権利を所有する企業 | 自身 | 権利を所有する企業や個人 |
個人利用なら著作権・肖像権・商標権侵害にはならない?
結論、個人利用なら著作権の侵害にはなりません。
たとえば有名人の写真を印刷し、それを家の壁に貼り付けることは自分が楽しむために行っているため著作権に抵触しません。
ただし、その写真を友人に配布・譲渡したり、販売したりすると著作権侵害となり、損害賠償請求などに発展する可能性があります。
配布することが多い印刷物の中には、新聞の切り抜きが含まれます。
実は新聞の切り抜きをコピーし、知人や社内に配布・共有する行為は著作物の複製にあたるため、著作権法の侵害となります。
新聞紙はその日の情報を提供することで収益を得るための媒体で、ライターが事実と合わせて考察を記載することもあるため、著作物となります。
おわりに
本記事では、ネット印刷の依頼時に注意をするべき著作権や肖像権、商標権についてご説明しました。
著作権とは、著作者と著作物双方の権利を守るもので、著作権法に抵触すると損害賠償請求などに応じなければなりません。
著作者や著作者の権利を侵害しないように、印刷物に掲載するイラストやデザインにも気を配りましょう。
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